RESEARCH

INTRODUCTION

患者さんの診療を行う上で、自身の2つの目で“木を見て森も見る”ように、細部と全体を隈なく見る力が必要です。
その力を養うために私たちは、基礎・臨床問わず仮説と検証を自ら行う研究を経験することが重要であると考えています。
私たちの研究分野は下図のように、種々の腎臓病(糖尿病性腎症、急性腎障害、ネフローゼ症候群、ループス腎炎、遺伝性腎疾患;腎コロボーマ症候群)のほか、臓器不全の共通経路である臓器線維化および腎臓病と全身臓器ネットワークの解明(感染症、アミノ酸)と多岐にわたって力を入れています。

糖尿病性腎症

2009~2017年度に継続された厚生労働省、AMEDの公的研究班(研究代表者 金沢大学大学院腎臓内科学 和田隆志)では,糖尿病性腎症病期分類の改訂,糖尿病性腎症と高血圧性腎硬化症の病理診断標準化に向けた手引きの作成,糖尿病性腎症病期分類に基づいた腎病理診断の手引きの作成等の成果が集積されました。糖尿病性腎症ならびに糖尿病性腎臓病の予後改善に向けて,日本腎臓学会・腎臓病総合レジストリーの二次研究「糖尿病性腎症例を対象とした予後,合併症,治療に関する観察研究(Japan Diabetic Nephropathy Cohort Study:JDNCS)」も継続し,臨床・病理・バイオマーカー・ゲノム情報を統合した研究を進めています。

急性腎障害 

急性腎障害(Acute Kidney Injury; AKI)の再発や罹病期間などに着目し,臨床研究を行っています。最近では, AKI再発までの期間が短い群では予後が不良であることを報告しました(BMJ Open. 2019 Jun 16;9(6):e023259)。また,基礎研究として腎の発生に関与するPAX2遺伝子との関連についても検討しています。PAX2遺伝子変異により腎低形成と視神経・網膜の異常を呈する腎コロボーマ症候群を発症することが知られています。この疾患はまだ不明な点も多く,AKIとの関連を通して臨床病態のさらなる解明を目指したいと考えています。

ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は糸球体の濾過機能が障害されることにより,高度の蛋白尿をきたし,低アルブミン血症や浮腫が出現する腎疾患群です.腎生検による腎組織評価にて病型が分類されますが,当教室では50年以上,10,000検体におよぶ腎組織標本による検討を行っています.長期にわたる臨床経過に加え,経時的な腎組織評価を行い,治療効果や予後などの検討を行っています.膜性腎症における長期の臨床病理学的な評価や,巣状分節性糸球体硬化症をはじめとする難治性ネフローゼ症候群に対するLDLアフェレシスの治療効果などの検討を中心に行っています.

ループス腎炎

全身性エリテマトーデス(SLE)に関して、当教室では臨床研究および基礎研究を行っています。当科で診療しているSLE, ループス腎炎についての腎予後解析を行い、さらに全国の施設が参加するPLEASURE-J研究に参加しています。そこでは、若年成人の新規発症SLEの生命予後や妊娠、QOLに関しての観察研究を全国の施設と共同して行っています。また,基礎研究としてはループスモデルマウスを用いて、その病態解明を試みています。特に免疫担当細胞の意義について検討を進めています。また、リゾリン脂質と腎臓の病変の関連についても検討しています。

遺伝性腎疾患:腎コロボーマ症候群

腎コロボーマ症候群は,腎形態異常・視神経コロボーマを特徴とする遺伝性腎疾患です。世界で400例と稀少な疾患ながら、診断ポイントの明確化により当教室では約30例の症例を集積しています。PAX2遺伝子が主要な原因遺伝子であり,変異の有無は臨床的な重症度と関連することが知られています。また新規原因遺伝子として世界で初めてヒトにおけるKIF26B遺伝子の変異を報告しました。さらに腎コロボーマ症候群特異的iPS細胞を樹立し,ヒト腎発生過程やRCSの病態におけるPAX2遺伝子変異の意義についての解析を進めています。

臓器線維化

臓器線維化は、臓器不全をきたす共通進展機序です。当教室では、腎線維化を中心にその進展機序および診断・治療法開発を目標に研究をすすめています。特に、我々は血液中の因子、ことに細胞因子と液性因子に着目しています。細胞因子としては、世界に先駆けて同定した骨髄由来線維化関連細胞の線維化への関連、また液性因子として脂質メディエーターや関連転写因子に着目し、臨床現場に還元すべく研究を行っています。

感染症

超高齢化社会を迎え、感染症対策は重要な課題です。重症感染症に伴い、腎障害など、末梢臓器障害や、生命予後が悪化することなどが問題となっています。これまでは宿主の状態が感染症の病態に関わっていることが判明しています。我々は、菌体の遺伝子情報を基にして、菌側の因子が感染症の病態、特に腎臓に及ぼす影響を検討しています。菌体側の因子を遺伝子変異の観点でとらえ、感染症の病態を解明し、新規治療標的分子の探索、腎臓病を主体とした臓器障害機序と全身臓器ネットワーク解明を目指しています。

アミノ酸

すべての臓器の構成成分であるタンパク質のもとであるアミノ酸には、2つの光学異性体が存在します。それぞれ、D体(D-アミノ酸)とL体(L-アミノ酸)と呼び、D体とL体に識別されたアミノ酸をキラルアミノ酸と呼びます。ヒトの生命活動に必要なアミノ酸はL体だと長年考えられてきましたが、近年D体も重要な役割を担うことが明らかになりつつあります。我々は、このキラルアミノ酸、ことにD-アミノ酸を介した腎臓と全身臓器の生体ネットワーク機構の解明を試みています。将来、D-アミノ酸を用いた新規の腎臓病バイオマーカー、治療薬を臨床へ還元することを目指し研究しています。